寒水魚:砂の船 [CD]
1.悪女/2.傾斜/3.鳥になって/4.捨てるほどの愛でいいから/5.B.G.M./6.家出/7.時刻表/8.砂の船/9.歌姫/
誰か 僕を呼ぶ声がする
深い夜の 海の底から
目を 開ければ窓の外には
のぞくように 傾いた月
(「砂の船」中島みゆき)
アルバムの8曲目「砂の船」の冒頭である。呼ばれた主人公は「砂の船」に乗って夜の海に漕ぎ出す。結果は分かっている。望み通り『夢を見ない国』に辿り着くだろう。
夢を見ることに疲れた時にこの歌を聞くと強く引き付けられる。「私も呼んでほしいなぁ」と思うことがある。「きっと私も呼ばれている」と思うこともある。私の場合は夢を見なくてもこの世で楽しむことができて、それを捨てるのがもったいないので「砂の船」に乗らなかった。
主人公は夢が破れただけでなく失恋も重なったのかもしれない。
望むものは何ひとつない
さがす人も 誰ひとりない
望むほどに 消える夢です
さがすほどに 逃げる愛です
(「砂の船」中島みゆき)
「夢」や「愛」が蜃気楼のようである。主人公は蜃気楼を追い続けて疲れてしまったようである。「蜃気楼」は英語で「mirage」というらしい。「mirage」には「はかない夢、実現不可能な夢」という意味があるらしい。意図して作詞したのかもしれない。波に揺れる月も蜃気楼が揺れている様子と重なる。
月は波に揺れて 幾百 幾千
古い熱い夢の数だけ
(「砂の船」中島みゆき)
一人で幾百幾千の夢を見ることはほとんどないだろう。この海の底には主人公のように夢を追い続けて疲れた人たちがたくさん眠っているのかもしれない。その人たちの夢が海面を漂っているのかもしれない。すると、この歌はそのような人たちへの「鎮魂歌」と考えることもできる。もしかしたら「人」ではなく消えた「夢」に対する鎮魂歌かもしれない。
ただ 誰もいない夜の海を
砂の船がゆく
(「砂の船」中島みゆき)
とても暗く淋しい歌である。しかし、月夜の海に砂の船が浮かんでいる映像が美しい。「砂の船」は私の好きな歌の一つである。
寒水魚:【傾斜】【捨てるほどの愛でいいから】【時刻表】【砂の船】【歌姫】
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