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統合失調症とわたしとクスリ [本]

統合失調症とわたしとクスリ―かしこい病者になるために

統合失調症とわたしとクスリ―かしこい病者になるために

  • 作者: 川村 実 (著), 中内 堅 (著), 佐野 卓志 (著), 名月 かな (著)
  • 出版社/メーカー: ぶどう社
  • 発売日: 2005/05
  • メディア: 単行本

 この本の企画は統合失調症当事者である著者の一人が他の当事者に「当事者の体験にもとづくクスリの本をつくりたいんです」(「あとがき」より)と呼びかけたことから始まった。著者の4人は全て統合失調症当事者である。そして、その4人の付き合いは、ほとんどインターネット上だけである。交わしたメールは2000通(「あとがき」より)を越えた。誰かが原稿を書いて他の著者が評価し、別の著者が原稿を書いて他の著者が評価する。そのような遣り取りを続けて作られた本である。原稿が完成してから著者の一人である名月かな氏は原稿をぶどう社に送った。ぶどう社の市毛研一郎氏は快く出版を引き受けてくれたようである。このような場合、自費出版になるのが普通なのかもしれないが、市毛氏は出版費用の負担を著者らに求めなかったようである。ぶどう社では障害者に関する本を多数出版しているからかもしれない。この本の前にやはり統合失調症当事者が著者である『心を病むってどういうこと?—精神病の体験者より』(古川奈都子著)を出版している。
 さて、そのような経緯で出版された『統合失調症とわたしとクスリ』は非常に面白い。『「このクスリをのむと、どんな感じがするか」というのは当事者しか語ることができません』(「まえがき」より)とあるように、薬を飲んだ後の、そして飲んだ薬の違いによる自分の様子が述べられている。例えば48ページに次のような記述がある。

 〈ジプレキサ〉を飲んで一番感じたのは、すごくふらつくこと。これはしばらく飲んでみてから、寝る前に飲むことにして解決した。
 〈ハロペリドール〉と明らかに違うのは、水分をたくさん取らなくてもよくなったこと。それから、元々あまりなかった性欲がなくなったが、それもしばらくすると改善されてきた。

 興味深いのは薬の処方を患者である著者の方から主治医に提案していること。例えば46ページに次のように書いてある。

 それで、K医師に新薬のことを切り出してみた。K医師は良い医師だけれど、ちょっと「新薬を処方してください」とは言いにくいところがあった。
 はじめ、K医師は、「これが一番新しい薬なの!」と〈ハロペリドール〉のことを言って、全然相手にしてくれなかった。

 その後も著者は諦めなかったようである。何度も新薬の処方を願い出たようである。そして、やっと処方してもらえることになった。47ページに次のように書いてある。

 佐野さんの励ましもあって、僕は転院することも覚悟で、K医師に新薬を処方してくれるよう迫った。気持ちが通じたのか、やっとK医師は新薬処方を決めてくれた。

 その後、著者は医師が勧める新薬ではなく自分が提案した新薬を処方してもらったようである。薬を変えてすぐに調子が良くなったわけではないが、最終的には最適と思われる処方に至ったようである。

 私は統合失調症になったわけではないから症状の苦しみは実感できない。副作用の苦しみも実感できない。しかし、当事者は本当に苦しいのだろう。『統合失調症とわたしとクスリ』には発症した時の様子や薬を飲んで調子が悪くなった時の様子も述べられている。本当に苦しくて何とかしたいから、医師の処方する薬よりも楽になれる薬があるのなら、そちらを処方してもらいたいのだろう。そして医師に提案するのだろう。当事者は薬をずっと飲み続けなければいけない。「一時我慢すれば良い」というわけにはいかない。だから最適な薬を求める必要があるのだろう。著者らは自分にあった薬に巡り合ったようである。しかし、日本には医師の処方する薬で苦しみながら我慢している患者が多いのではないだろうか。医師にはその苦しみは伝わっていないかもしれない。良心的な医師は伝えてもらいたいだろう。伝えてもらわなければ正しい処方ができないだろうから。今の薬で苦しんでいる人は、ぜひ、医師と薬について話し合ってもらいたい。話し合って、自分にあった薬を見つけていただきたい。

 さて、『統合失調症とわたしとクスリ』は統合失調症当事者の薬との付き合い方が述べられていて統合失調症当事者が参考にできる本だろう。しかし、発症するまでの様子も述べられているから、統合失調症の症状について知りたい人にも役立つかもしれない。全ての症状が述べられているわけではないが、「このような症状があるんだな」と思えるかもしれない。ぜひ、読んでいただきたい。

 ちなみに、本のカバーデザインを担当したのも著者の一人である。

 以下に、ぶどう社のサイトから目次を引用する。

http://www.budousha.co.jp/booklist/book/kusuri.htm
●目 次●
まえがき
プロローグ …………………………………………………………… 名月かな
クスリをのむ体験を語りあってみませんか
 1 クスリをめぐるわたしの遍歴
 2 クスリをどうのみつづければいいのか
序章 …………………………………………………………………… 川村 実
精神障害者は、どう生きようとしているか
 1 精神障害を受け入れる
 2 精神障害とは
 3 精神障害者と社会生活経験
 4 精神障害の特徴
 5 ひとりの人として生きるには
 6 ひとつプレゼントします
 7 友人を通して精神障害を理解する
 8 精神障害者と宗教
 9 薬について
 10 新しい時代のPSWとして
 11 良い病院・悪い病院
 *「用語」の説明 —— 統合失調症と薬について ………………… 川村 実
  1)統合失調症の治療と薬について
  2)陽性症状と陰性症状について 【陽性症状】【陰性症状】
  3)幻聴・妄想・幻視について 【幻聴】【妄想】【幻視】
  4)寛解と再発について 【病識を持つ】【断薬】【寛解】【再発】
  5)抗精神病薬について 【新薬】【旧薬】
  6)維持薬と頓服について 【維持薬】【頓服】【抗不安薬】
  7)睡眠障害と薬について 【入眠剤】【睡眠剤】
  8)副作用について 【副作用】【副作用止め】【悪性症候群】【離脱症状】
  9)薬の飲み合わせについて 【多剤併用】【禁忌】
  10)うつ病とうつについて 【うつ病】【うつ】
2章 …………………………………………………………… 中内 堅
発病から、新薬に出会うまで
 1 発病するまで
 2 妄想が強まる
 3 病院へ
 4 統合失調症と知って、驚く
 5 大腸炎で入院
 6 ネットで統合失調症の人と接する
 7 新薬のことを知る
 8 やっと新薬を処方してくれた
 9 新薬に切り替えて
3章 …………………………………………………………… 佐野卓志
薬の勉強をしながら、ネットで相談に答える
 1 発病前の生活
 2 発 病
 3 入 院
 4 再 発
 5 維持薬
 6 主治医との関係
 7 治る病気
 8 ホームページの掲示板
 9 制度の利用
 10 「愛」が必要
4章 …………………………………………………………… 川村 実
医者とのコミュニケーションと信頼関係
 1 僕が発病するまで
 2 退院後の家庭療養
 3 睡眠障害と入眠剤
 4 新薬への切り替え
 5 薬の飲み方は医者と話し合って
 6 主治医を替える
 7 副作用について
 8 薬の知識を得るには
 9 セカンドオピニオンを持つ
 10 家族に対して
 11 おわりに
5章 …………………………………………………………… 名月かな
わたしは、クスリをどんなふうにつかっているか
 1 わたしが障害を拾うまで
 2 「落ちつかないとき」のクスリ
 3 クスリをのむ前に、クスリをのんだあとに
 4 寝る前のクスリ
 5 ふだんのクスリ
 6 クスリの副作用について
6章 …………………………………………………………… 名月かな
わたしは、クスリや医者とどうつきあっているか
 1 わからないことはききつづける
 2 どんなのみかたが負担をかけないか確かめる
 3 調剤薬局は役に立つ
 4 主治医が伝えてくれた3つのこと
 5 主治医とどんな関係をつくろうとしてきたか
 6 精神障害者でも穏やかに充足した暮らしがおくれる
エピローグ ………………………………………………………… 名月かな
かしこい病者になりましょう!
 1 わたしたちは、こんなふうにも生きられる
 2 日々の生活を充ち足りたものにするために
 あとがき

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